Page16–「場当たり開始」


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団長の独り言 2019.01.05-3

「場当たり開始」

さてさてその演奏隊の二人だが、
もぉーすごいですわ。

音大出身の二人だけにしか分からない
専門用語連発の会話が終わると、

「じゃーやってみますね」

とアマティーが演奏を始めると、
ピアノにうまーく合わせて、
池田海人さんのヴァイオリンが入る。

その後、カーテンコールで
演奏してもらう曲の合わせ。

せっかく新春特別公演なのだから、
私は「一月一日」をリクエストした。

♪とーしのはーじめの、
ためしとてー♪

って曲ね。

クラッシックを学んだ専門家に、
純和風のこの曲をお願いするのって、
実は結構な無茶振りだったかもしれないが、
二人とも嫌な顔ひとつせず、
まずはアマティーが、
ピアノでこの曲を
普通の速度で最後まで演奏し、
その演奏を聴きながら、
池田さんが楽譜にシャラシャラっと
音符達を書き綴って、
打ち合わせをする。

アマティーは、普通の速度で
この「一月一日」を弾いているんだよ!
しかも繰り返しもしないで!

それを池田さんは、サラサラーって
音符にしてしまうんだから、
超一流の音楽家って
やっぱり凄い!

そしてアレンジした「一月一日」を、
ピアノとヴァイオリンの
コラボで演奏してもらうと、
最高に素晴らしい。

これは一曲ではもったいない!

「今度は
これぞクラッシック!って曲で、
なんかかっこいいやつを演奏して」と、

またしても
ど素人丸出しのリクエストをしたら、
今度はめちゃくちゃテンポのいい、
「モンティー」の「チャールダッシュ」
って曲を演奏してくれる二人。

こちらは打ち合わせもなく、
サッ!とできてしまうんだから、
二人ともすっげーよなぁ。

こんなゴージャスな音合わせを終え、
しばしの休憩後、
場当たり開始の時間となる。

時計に目をやれば18時半過ぎ。

場当たりというのは、
建ち上がったセットを使って、
実際の照明、音響を入れた状態で
舞台転換を行い問題点はないかを見たり、
場面場面での照明、音響のチェックをする
作業の事で、役者の立ち位置等を
キチンと決めるのも、この場当たりで行う。

これまで稽古場で
「良し」としてきた動きなどでも、
実際のセットの中で実際の照明が当たると
「あれ?」ってなる事も多々あり、

それらの箇所を徹底的に修正し、
照明や音響が、
私のイメージ通りになっているのかを
細かくチェックしていく。

まずは会場が明るい中、
1ベルという予鈴が鳴り、
ボイス・エマノンさんの開演の
場内アナウンスが流れ、
数分後に2ベルという本ベルが鳴り、
アマティアズと池田さんの
生演奏が始まると、
場内が徐々に暗くなり、
舞台上の「末吉家」が、
音楽に合わせて、朝、昼、夕方、
そして夜へと変化。

やがて音楽が終わると一旦暗くなり、
セミの大合唱の中、
真夏の燦々と照りつける
太陽の明かりを表現した照明の中、
「末吉百合子」役の鈴木千秋が登場してくる。

こうした芝居が始まる瞬間って、
一度行った芝居といえども、
めちゃくちゃ緊張するものなのですよ。

で、そのオープニングが終わり、
百合子が出て来たら、進行の総責任者である
舞台監督の高橋さんが、

「はい!ここで止めます」
と言って一旦芝居を止める。

私は、客席一番後ろに設置した
演出ブースにあるマイクを手にとり、
「問題ありません」と告げる。

すると高橋さんは「音響さん、
照明さんも大丈夫でしょうか?」
とインカム越しに確認をして、
問題がなければ次に効果音が絡むシーン、
そしてシーン変わりの舞台転換へ。

場当たりという作業で
一番時間と神経を使うのが、
実は場面の変わるこの舞台転換なんです。

稽古場での場面転換では、
舞台セットも当然ながらないし、
サイズも違うし、照明も暗くならない。

「はい!暗転です」

という私あるいは
舞台監督さんの言葉をきっかけに
役者はそれぞれの場面にスタンバイし、
スタッフは、テーブルや靴、ビール瓶、カバン等の
道具類の転換を行っていたのだが、

初めて本物のセット、本物の照明、
本物の音響の中で行うわけで、
稽古場では上手くいっていた事でも、
「あれ?」なんて事がわりとある。

特に初舞台か、経験の浅い役者が
スタンバイする際、
稽古場では上手くいったのに、
いざ本物の舞台だと、
「あれ?」となる事が多い。

それは、明るさや距離感が
稽古場とは全然違うので、
戸惑ってしまうのだ。

そこで上手く出来ない問題点を洗い出し、
改善方法をみんなで練るわけなんだけど、
そんな時にイラッとするのは、
「出来ません」「無理でしょ」
って発言する人だ・・・。

今の座組みでは、
もちろんそんな発言をする人は、
さすがにいなくなったけど、
十数年くらい前までは、
出来ない事を自慢する人がいた。

そもそも舞台作りにおいて
「出来ない」という選択肢はないわけで、
限られた条件の中、
何が何でも「出来るようにする」のが、
場当たりという作業なんだよね。

今回も絶対的な信頼のおける
「チーム平野」のスタッフ軍団のお人柄と、
知恵と経験、そして
劇団メンバー達の前向きな心で、
場当たりは、
サクサク進んでいったのでした。