Page24 –「場当たり」


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団長の独り言 2019.07.26-③

「場当たり」

場当たりが始まった。
場当たりというのは、完成された舞台セットの中で、
効果音のタイミングやマイクのレベル、
照明の色合い、暗転になる際のタイミング、
そして役者の位置等を幕開きから
順を追って確認して、芝居のすべてが
確定するっていうほどかなり大事な作業の事。

毎回進行は舞台監督さんにすべてをお任せし、
私は客席後方の演出席より
舞台全体のチェックを行う。

「では、幕開きからいきまーす」

舞台監督さんの声が響き渡り、
まず場内アナウンスが流れ、
やがて静かに2ベルが場内全体に流れ、
客席の明かりがゆっくり消え、
アマティアズのピアノ演奏が始まり、
客席が完全に暗くなったタイミングで
緞帳幕がゆっくり上がり始める。

場当たりの中で、私はこの瞬間が一番緊張する。
客席の後ろからお客様の気持ちになって
チェックしているのだが、
稽古場で作ってきた作品が
実際の劇場でお披露目となる
大事なスタート部分なので心臓はバクバク。

それにしてもこんな幕開きって、
今どきの一般的な演劇ではあまりやってないかもねぇ。

2ベルが鳴って場内が暗くなり、
オープニングの演奏が始まると緞帳幕が上がり始め、
演奏が終わると同時に一旦暗くなって、
いよいよお芝居が始まる・・・。

新劇や小劇場で行う芝居では
まずこんな始まり方はしないよね。

でもいいのです。
私は個人的にこの始まり方が好きなんです。

なんか、ほら「さぁー始まりますよ!」って感じで
ワクワクしませんか?

客席の明かりがついている中で、
いきなり客席後方から
ブツブツセリフを言いながら役者が登場し、
気が付けば舞台の中に明かりが入っていて、
知らず知らずのうちに芝居が始まっているっていうものや、
突然爆音が響き渡り「なんじゃ?」って
思う暇もなく始まる芝居もなんかすごいけど、
そんな芸術的な作品は私には描けないので、
背伸びする事なく、
昔ながらのオーソドックスな始まり方に
こだわっているのです。

そうそう、そういえば今回の初日、
演奏が始まり客席が暗くなりゆっくり幕が上がり、
舞台セットがお客様の前に現れると、
会場からたくさんの拍手をいただいたのですよ。

「待ってましたぁ〜」

っていう拍手なんですよね。

袖にスタンバイしている関係者全員、
緊張しまくりながらも
「よし!やるぞ!」って気持ちになったのは、
言うまでもない。

まっ!どんな始まり方にせよ、
演出家も舞台スタッフも、場当たりでの幕開きの瞬間は、
特に神経をとがらせてしまうんじゃないでしょうかね?

ちなみに今回のお芝居での幕開きは、
演奏が終わって一瞬暗くなると、
すぐさま演歌のイントロがスタートし、
1995年5月ってテロップが流れて、
幻想的な照明が入り芝居が始まるのです。

勢いよく舞台奥の台の上に飛び出してくる
「加瀬」演じる習志野さん。
続いて登場する「和世」演じる睦子さん。
声も芝居もとってもいい。

2分程度のこの「回想シーン」が終わると、
今度は上手奥の台の上にスタンバイしている
「従業員・滝廉太郎」演じる佐野さんが、
オカリナの生演奏を始める。

そのオカリナの演奏に合わせて、
舞台うしろには雄大な山々の景色等の映像が
次々と浮かび上がる。

そしてオカリナ演奏を終えた佐野さんは、
今度はアマティアズがピアノで奏でる
懐かしい故郷を思い出すような
オリジナル曲をバックに
哀愁のある語りで、昔と今を繋ぎ、
本編がスタートする。

普通、これだけ目まぐるしく変わる幕開きだと、
例えばスライドの投影が遅れたり、
役者の位置がちょいとずれていたり、
スタンバイするのに問題が生じたり、
どこかしら修正箇所があって、
「もう一回やりましょう」ってなるのだが、

今回は幕開きから本編が始まるって流れは、
申し分なく完璧に出来ていた。

「団長、何かありますか?」

って舞台監督さんから聞かれても
まったく問題ないので、
場当たりはこのままテンポよく進んでいく。

ただシーンが進むにつれ、
場面転換の際、移動に手こずる役者も・・・。

稽古場では何てことなく出来たのに、
いざ舞台上での転換となると、
ほぼ真っ暗な中での転換となるので、
稽古場でやっていた時とは
当然ながら勝手が全然違うわけで、

そういった暗転時の移動に慣れていない
役者はやや戸惑い、椅子を蹴ってしまったり、
暗い中でスタンバイする際、
場所がよく分からなかったりと、
ちょろちょろとしたミスがあった。

そこで
「暗闇の中で転換」が出来るようにと
蓄光テープの数を増やすと、
今度はどの蓄光テープを目指せばいいか分からなくなり、
暗闇の中で「ドンッ!」と何かにつまずいた
音も聞こえるが・・・

役者が慣れるまで繰り返しているほど
時間的な余裕はないので、
「大丈夫」という自信をもってもらい、
場当たりを進めていき、
最終シーンを残してこの日はタイムアウト。

こうして早朝の倉庫からの積み出しからの
長い長い一日は終わり、
いよいよ明日、初日を迎えるのでした。