Page27 – 「ありがとう、お父さん・Part3」


7月19日(金) 「幕が上がる!」

高橋さんが、劇団ふぁんハウスの
舞台監督をやっていただくようになって
早数年が経つけれど、

「搬入」→「仕込み」→「照明のシュート」
「サウンドチェック」→「場当たり」→
「ゲネプロ」という行程が、
毎回とてもスムーズに進行する。

スムーズに進行するから、
時間的なゆとりが生まれ、
ゲネプロが終了してから本番開始まで
2時間近い時間を確保する事ができる。

その昔の劇団ふぁんハウスは、
何でもかんでもギリギリで、
休憩はおろか、お昼ご飯さえ
食べる時間もなく、下手すれば、
ゲネプロすら最後まで通せない事もあった。

しかし、高橋さんが劇団ふぁんハウスに
来てくれるようになってから、
ゆとりを持てるようになり、
本番開始に向けての時間が取れるから、
すごく精神的にも楽だ。

心を穏やかに、いよいよ始まる本番を前に、
共演者とたわいもない話をしたり、
意味もなく舞台の裏を行ったり
来たりしていると、

「では開場しまーす!」

という高橋さんの声が楽屋に響き渡る。

しばらくすると、ロビーにお越しのお客様が、
続々と劇場内にご入場する様子が
モニター画面を通して映し出される。

「お客様が客席に入場された!」

楽屋の空気が変わる。

みんな無言で、
その様子を見つめているから
不思議だよね。

それからしばらくすると、あちらこちらで、

「初日、おめでとうございます。
よろしくお願いします。」

って挨拶をしているメンバー達が
楽屋前の廊下をウロウロし始める。

そうなのだよ!
初日を迎えるってことは、
めでたいことなのだよ!

だから私は、そうしたメンバー達
ひとり、ひとりに挨拶を返し、
「初日」ってものの空気を楽しむ。

開演10分前、
ステージ裏の廊下に出演者、
スタッフが集合し、劇団ふぁんハウス恒例の
円陣を組んでの「気合入れ」。

「これまで作り上げてきたものを、
お客様にお届けする時が来ました。
とにかく楽しもう!色々あったけれど、
これまで稽古してきたことに自信を持ってね!」

と私が全員に言って、
みな右手を伸ばし、手の甲を重ね合い、

「いくぞー」
「おー」

の掛け声で、拍手をして

「よろしくお願いしまーす!」

で各自が各自のポジションに着く。

「まもなく1ベルいきまーす」という高橋さんの
声に続いて、15年前の第1回公演の時から
ずっと流れ続けている、音響の野中君の
こだわりの開演3分前の1ベルが響き渡り、

ボイス・エマノンさんのアナウンス、
そのさらに3分後、2ベルが鳴って、
アマティーの演奏するオリジナル曲が
暗くなった客席に流れると、
舞台袖でスタンバイしている役者達は、
緊張の面持ちでその曲を黙って聞き、
みなでモチベーションを高める。

やがて「敦子役」の有実ちゃん(林有実)が、
舞台上へと歩みを進め、
スポットライトが当たり、芝居が始まった。

演出のみだと、客席からお客様の反応や
役者の芝居を観る事ができるのだが、
役者でもある私は、この瞬間から
演出家の顔は忘れ、全神経を役者として集中し、
袖で出番を待つ。

すると、舞台転換を担当する出番を控えた
出演者達が、「電車の椅子」、「車の椅子」、
秀さん演じる「お父さん」が横たわる「ベッド」、
そしてパイプ椅子などを、
手際よくスピーディーに出し入れをして、
私のスタンバイする目の前を通り抜けて行く。

「本当は、みんな役者に
集中してもらいたいのにごめんね・・・」

と申し訳ない気持ちになりながら、
一生懸命、チームを組んで
テキパキと暗闇の中で転換を
こなしているメンバー達を見ていると、
なんだか感動してしまう。

みんなが裏で真剣に作業している姿を、
ドキュメンタリー番組として、
どこかのテレビ制作会社に
放映してもらいたくなるくらい、
舞台裏での転換作業は
ドラマチックなものであった!

「いいメンバーに恵まれたなぁー」

ってしみじみ思いながら、
みんなの姿を見ていたら、

おっと!
いよいよ私が役者として登場するシーンだ!

気持ちを切り替え、
暗転した舞台へと歩みを進める。

このシーンで転換スタッフとして
活躍している役者達と舞台上ですれ違い、
私と美和(平野美和)が椅子に座ると、
舞台に明かりが入り、
「役者・平野恒雄」の初日がスタート。

当たり前だけど、稽古場と違って
大勢のお客様が目の前にいるので、

散々稽古したつもりでも、
登場するシーンというのは、
何度経験しても緊張するが、

これまで稽古してきた自分を信じて、
メンバーを信じて、
丁寧に丁寧に「源太」を演じていく。

みんなの芝居も全体的に安定していて、

「このシーンでウケるのか!」

なんて発見もあり、
舞台の上にいても、お客様が「平野ワールド」に
ちょっとずつ入り込んで下さっているのが
伝わってきて、芝居がいい雰囲気で中盤へと
差し掛かったその時!

私自らが「あちゃー」って
ミスをしてしまったのだ・・・。

つづく。